【関西から世界へ!】#02トレジェムバイオファーマ社「歯科医師が見つけた世界初の歯が生える薬の開発」

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◆事業概要

トレジェムバイオファーマ株式会社は、歯の再生治療薬の研究開発・上市を目的に起業した京都大学発のベンチャー企業だ。

ベースとなっているのは、共同創業者のひとりである京都大学歯科口腔外科・高橋克准教授(現:田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)の研究成果だ。


2007年に過剰歯を持つモデルマウスが発見されたことをきっかけに、高橋氏は先天性・後天性の歯の欠損を歯生え薬で治療できる可能性を考え、マウスの歯の数を回復できる抗体(マウス抗USAG-1抗体)を作製。マウスとフェレットで歯の数が増えることを確認したうえで、抗体をヒト化し、現在はヒト臨床治験の実施に向けて製造方法・精製の検討や安全性試験の準備を行っているところだ。トレジェムバイオファーマ株式会社は、健康寿命の延伸に貢献するために、まずは生まれつき6本以上の永久歯がない先天性無歯症の治療薬の開発を進め、ゆくゆくは後天性無歯症の患者に適応する薬を生み出したいと考えている。


【企業名の由来】


◆ビジネスモデルの特徴と企業の強み

トレジェムバイオファーマ株式会社の一番の強みは、薬で歯を生やすという技術を有する唯一無二の会社であることだ。欠損した歯を治療するための方法は、現時点で義歯やインプラントに頼らざるを得ない。しかし、トレジェムバイオファーマ株式会社が研究する歯生え薬が実用化されれば、薬を注射するだけで欠損した歯を回復させることが可能になる。これまでにない斬新かつ画期的な研究を実現できたのは、環境や連携の強みが大きい。 歯生え薬の研究に際し、行き詰まることもあったが、高橋氏がその道の権威とのパイプをつなげ、見事障害をクリアした。


トレジェムバイオファーマ株式会社は京都大学発のベンチャー企業だが、各種専門企業、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)、 大学等の産官学連携にて研究を続けられたことが現在の成果をもたらしたのだという。こうした連携によって培われた知財を、そのまま研究に活用できているのがトレジェムバイオファーマ株式会社ならではの強みとなっている。


◆強み・アピールポイント

トレジェムバイオファーマ株式会社が研究・開発を進めている歯生え薬の強みは、既存の治療法に新たな選択肢を加えられるところだ。 先天性無歯症は遺伝性ということもあり、小学生くらいの頃に永久歯の欠損に気づくことが多い。先天性無歯症は最低6本の永久歯が欠損した状態のため、食事に支障を来すおそれがある。 大人になればインプラントで治療することも可能だが、子どものうちは成長に合わせて、入れ歯を作り替えていかなければいけないのが現状だ。


さらに成人してインプラント手術を行う場合は、顎骨の形成手術や移植手術等を施す必要があるため、10-20年規模という長期的な治療計画が必要となる。トレジェムバイオファーマ株式会社が研究する歯生え薬なら、先天性無歯症と診断された時点から薬を投与することによって、自然に歯を生えさせることが可能になる。 歯が生えるまでに時間がかかってしまうため、既存の治療法の完全な代替になるわけではないが、実用化されれば欠損歯の有力な治療法のオプションになることは間違いない。


先天性無歯症と診断されるのは永久歯が6本以上ない例に限定されるが、6本未満、つまり1~5本までの部分無歯症の患者は、歯科治療に通う子ども全体の1割程度におよぶという。トレジェムバイオファーマ株式会社の歯生え薬は部分無歯症の患者にも適応できる可能性があり、歯の欠損に悩んでいる患者にとって有力な治療法の選択肢が増えることに期待が寄せられている。


【歯を失う理由】



◆事業にかける想い

共同創業者のひとりである高橋克氏は、「1個の遺伝子に変異が入るだけで歯の数が増えること」に着目し、30年に渡り歯生え薬に研究開発に取り組んできた。大学院、留学先で学んできた分子生物学、発生生物学を基本に歯を増やすタンパクを標的にすれば、歯を再生することはできると確信していた。数多くの師匠、先輩、同期、後輩、研究好きの弟子たちからなる研究仲間に加えて、ベンチャー起業支援プログラム等の起業への環境にも恵まれた。歯がないために困っておられる患者さんたちに一刻も早くこの薬を届けるために、思いを同じくする喜早氏、高谷氏とトレジェム社を起業することとなった。


共同創業者のひとりである喜早ほのか氏は、中学生のときに下顎の骨の病気に罹患し、入院・手術を経て2本の永久歯を失った。自分を救ってくれた口腔外科医への憧れと、永久歯を失ったことへのショックから、自身の病気の原因や、失った歯を再生できる方法を研究したいと決意。2008年に大学院に進学して以降、共同創業者である高橋氏の下で歯の再生研究に携わってきた。一時期は研究費の枯渇により研究の縮小あるいは撤退が考えられたり、研究の芽が出ずに低迷した時期もあったりしたが、1回の注射投与で歯が生えるという画期的な薬を安全に患者へ届けたいという強い想いが、研究の継続やベンチャー企業の立ち上げに繋がっている。


◆今後の事業展開

トレジェムバイオファーマ株式会社では現在、GMP製剤の作製と非臨床安全性試験を進めているところだ。 まずは先天性無歯症の患者に対し、2030年を目途に世界初の歯生え薬を届けたいと考えている。そして将来的には、虫歯や歯周病などが原因で後天的に歯を失ってしまった患者の治療にも適応していくのが目標だ。


トレジェムバイオファーマ株式会社の歯生え薬は、歯の芽を伸ばして生やす薬であるため、基本的には先天性・後天性ともに適応可能と考えられている。ただ、抗体が複数存在するため、後天性無歯症に対して先天性と同じ抗体で適応できるかどうかも研究していく予定だ。そのためには、製薬企業とパートナーシップ契約を締結することが必要不可欠だ。現在は治験の準備を進めつつ、パートナーシップを結べる企業を探し、少しでも早い実用化を目指す。


【出典】